Mar82017

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K.テンペスト2017 “我々は夢と同じ物で作られている” / K.TEMPEST2017 “We are such stuff as dreams are made on”

先日まつもと市民芸術館で観たロマンス劇『K.テンペスト』がとても素敵でした。
この芝居はシェイクスピア最後の作品と言われる『テンペスト』に演出家の串田和美さんが新たな解釈を加えたもの。(それで頭文字に「K.」がつきます)

ストーリーは、
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ナポリ王アロンゾー、ミラノ大公アントーニオらを乗せた船が大嵐に遭い難破、一行は絶海の孤島に漂着。その島には12年前に弟アントーニオによって大公の地位を追われ追放されたプロスペローと娘ミランダが魔法と学問を研究して暮らしていた。そして…
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…と、詳しくは解説や実際の芝居を観て頂くとして、まず感動したのは舞台セットと演出の数々。
舞台と客席はフラットで、観客は舞台の外でも中でも座ることができます。開場とともに場内には出演者がそこここにいて、役者自ら来場者を席に案内したり、劇中で使う楽器で即興演奏したり、自然と笑みがこぼれるような温かい空間となっていました。いかにもな奇をてらった演出でなく、本当にごく自然で(演者本人たちは本番前で内心気が気でないかもですが…)とても気持ちが良いものでした。

劇中の演出も素晴らしかったです。ケチャにホーメイ、ブルガリア民謡、400年前のイギリスではけっして思いつかれることがなかったであろう演出が次々に飛び出します。それらがこの芝居の重要な要素“魔法”や“夢”と絶妙にマッチしていました。自分はこれらを目の当たりにして、想像することの豊かさを改めて知ったような気がして、話の本筋と違うところでウルッと感動したのでした。本当にこれは是非会場で体験してほしいです。

ここからは少しなんのこっちゃな話になりますが、終演後お話しさせて頂いたステファノー役の大森博史さんの話もおもしろかったです。
大森さんは劇中でやや唐突に量子力学のことに触れます。僕はざっくりとしか知りませんが、量子力学の小さな小さなミクロの世界ではあらゆる可能性が混ざった状態で存在しているといいます。「シュレーディンガーの猫」の実験の考え方では、箱の中の猫は箱を開けて観測されるまでは「生きている状態」と「死んでいる状態」が混ざった状態で存在しているらしいです。(難しいですね…すみません…。)
乱暴に言うと自分の目に見えてない世界はいろんな可能性が同時に存在しているということでしょうか。例えば親と離れて暮らしているとして、その親は今起きてるかもしれないし寝てるかもしれないし歩いているかもしれないし座ってるかもしれない。量子力学の世界では、それら全て同時に存在していると考えられるようです。よく言うパラレルワールドなどもそういう発想からきているのかもしれません。

で、『テンペスト』には「我々は夢と同じ物で作られている(We are such stuff as dreams are made on)」という代表的なセリフがあるのですが、大森さんはこの言葉から夢といったものは量子力学的なものと関連していて、シェイクスピアは400年前にしてすでにそのことを直感的に気付いていたのではないかというようなことをおっしゃっていたのです。おもしろいです。(僕だけかもしれませんが…)

私たちが夢と呼んでいるものは、もしかして量子力学的に言うと、同時に(並行世界的に?)重なり合って存在しているはずのあらゆるものが見えたり見えなかったりしているものではないかと…。(お前何を言ってるんだとつっこまれそうですが…汗)
そう思うと、劇中の大森さんの発言もけして唐突でなくこの劇のテーマにつながっていて、劇の冒頭に出てくるかつて生き物だった海辺の砂の話や、チラシに載っている「われわれは、たとえ無自覚であっても、何万億の死者たちの聞こえない声に包まれている」くだりも合点がいったのでした。

長くなりますが、串田さんがこの公演の稽古を始める前に手にしたという『新訳 テンペスト』(2016年刊行)の話もおもしろかったです。その本の訳者 井村君江先生(妖精学の第一人者)は、従来の訳で“妖精(フェアリー)”とされていたものが、原文をたどると“精霊(スピリット)”であったことに気づき、そしてそのスピリットはシェイクスピア37作品中で『テンペスト』にしか出てこない謎を知りたくて新訳を出したとのことでした。とても興味がそそられます。“妖精”と“精霊”の違いの詳細は割愛しますが、そうした違いもきっと串田版『テンペスト』に大きく影響を与えたことでしょう。それこそ量子力学のような現代科学とも通ずることなのかもしれません。そういった意味でもまさに新解釈『テンペスト』=『K.テンペスト』でした。

…と、なんだか小難しい話に転んでしまいましたが、そういうことを考えなくても十分に楽しめます。
ロマンス劇と評されるように、劇中は魔法に満ちた世界です。串田さんが砂浜から着想を得たというとても叙情的な美しい世界も味わえます。きれいごとのように聞こえるかもしれませんが、想像することの豊かさを気づかせてくれて、想像することをもう少し信じてみようと素直に思える作品になっています。

今週末3/11(土)、12(日)に神奈川芸術劇場に巡演するので、関東圏にいる方で、もしまだ予定が決まってない方はおすすめです。

http://www.kaat.jp/d/tempest